【法律のツボ】職質は警察官の気の向くままに行われているのか?

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前号では飲酒運転摘発のための一斉検問やアルコール検査について説明した。
そのとき“職質”こと職務質問についてちょっとだけ触れたが、今回は職務質問のことを詳しく見ていきたい。

職務質問について一番知っておきたいのは、警察官が職務質問をするには一定の要件が必要とされる点だ。
一般には「警察官は気が向けばいつでも誰にでもひと声かけていろいろと尋ねることができる、それが職務質問だ」と考えられているようだ。
このような認識は、法律的には正しくない。

警察官職務執行法には、職務質問 がどういうものなのか明記されている。
それによると「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当の理由がある者またはすでに行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると思われる者を停止させて質問することができる」(警職法第2条第1項)という。

ようするに、職務質問とは①犯罪を犯したか、これから犯そうとしていると合理的な疑いを感じさせる者と、②犯罪について知っていると思われる者を対象にする行為なのだ。
警察官は、こういう者を「停止させて質問すること」ができる。これが正式な職務質問だ。

「ヤレヤレ、じゃあ安心だ。自分は犯罪に関係ないし、挙動にも不審な点はないはず。職務質問を受けることはないだろう」と考えている人は甘すぎる。
挙動不審かどうかは相手(警察官)がどう見たかによるからだ。

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「人を見たら泥棒と思え」という調子でニラまれたら、誰だって挙動不審者になりかねない。
それに、警察官は「その他周囲の事情から合理的に判断」することができるから、犯人や目撃者を探索しているときには通りがかった者は誰でも職務質問の対象となってしまう。
そうなると、職務質問を受けたときに「オレに職務質問するような要件はどこにもないゾ」と言って怒ってみても仕方がない。

ヘンに暴れたりすると、それこそ公務執行妨害罪に仕立て上げられてしまう。

では、職務質問について正確に知っておく意味はどこにあるのか。
それは、正確な知識さえあれば職務質問を受けたとき、必要以上に不安を抱くこともなく、また警察官に傲慢さがあればたしなめるなど、バランスのよい対応ができる点にある。
自分がどういう者で、いまどういう用事で何をしているのか簡潔に説明し、警察官がどういう犯罪について質問したいのかを尋ねるなどして、自分がその犯罪に関係ないこと、挙動不審者ではないことを早く理解させることができるだろう。

職務質問に関して知識を持っておいてほしいと思う理由が、もうひとつある。
それは職務質問の際、警察官が一定の有形力を行使することも、一定限度で所持品検査を行うことも判例上は認められていることに関係する。
職務質問とは先に述べたとおり、本来「停止させて質問すること」である。
もちろん、強制的処分ではないので無理強いはできない。

ところが、立ち去ろうとする者を説得するため、前に立ちはだかって停止させるとか、しばらく腕を捕まえるとか、所持品を尋ねてバッグの上から軽く触ってみる程度のことは職務質問に付随する適法な行為とされている。

このようなとき、いたずらに反発しても得はない。
しかし、職務質問いう名のもとに、ひとつ間違えば重大な人権侵害になりかねないことも行われるのだから、適法な職務質問であることが大前提だ。
こういう事態も想定すると、自分自身が職務質問について正確な知識を持っておくことは必要以上にイヤな思いをしないためにも、また警察官と無益なトラブルを起こさないためにも、とても重要なことだ。

横山康博 弁護士
マガジンX 電子書籍
法律のツボ

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