ムーヴはこれまでに累計340万台(この数字には派生車のラテやキャンバスは含まれていない)が愛用されてきた背高ワゴンだ。認証不正の影響でモデルチェンジは予定より遅れたが、ようやくデビューした7代目は(1)両側スライドドアの採用、(2)カスタム系の廃止:が見どころに挙げられる。
(1)両側スライドドアの採用
軽乗用車マーケットの推移を見ると、03年に初代タントが登場して以来、同種の大空間ワゴンが増え、いまや軽乗用車マーケットの約半数を占めている。市場でスライドドア車の比率は6割に達していて今後も需要は伸びるだろう、との展望に基づいてムーヴにも用いることが決断された。
(2)カスタム系の廃止
カスタム系の廃止は、初代で初めて設定された時と現在では商品ラインナップが大きく異なることに起因している。97年に『裏ムーヴ』と称して発売された当時、ダイハツの軽乗用車はミラ、オプティ、ムーヴの3車種だけで、多様化するニーズに応える目的で投入された。
しかし、いまではタントとタフト、さらにはコペンまでラインナップされて選択の幅は広がり、ムーヴ・カスタムの必要性は薄れたという。新型ムーヴの月販計画台数(6000台)で2種類を設定するのは難しいとの事情もあるようだ。
30年にわたって販売されてきたムーヴはリピート率が高く、バランスの良さが支持されているという。そこで、7代目の開発にあたってはスタイリッシュなデザイン、運転のしやすいサイズ感、軽快な走り、手頃な価格などが訴求ポイントに定められた。ターゲットは、かつて『新人類』と呼ばれた60歳前後の子離れ層だ。
『動く姿が美しい、端正で凛々しいデザイン』をコンセプトに設計されたエクステリアでは、スライドドアとスタイリッシュなフォルムが両立している。キャンバスと違ってAピラーは傾斜していてハコ感が抑えられ、シャークフィン状に設計されたリアクォーターピラーによって躍動感を演出。Aピラーが傾斜(=ルーフ前端が後退)しているおかげで直上の信号が見やすい点も嬉しい。
待ちに待ったバトンタッチでDNGA世代のコンポーネンツが採用されたのも朗報で、シャシーやエンジンがブラッシュアップされた。しかも、登場済みのタントやキャンバスから単に流用されたワケではなく、ムーヴ専用にチューンされて作り込まれている。
乗り味はキャンバスより締まりのあるカッチリとした仕立てだが、15インチタイヤを履くターボ仕様のRSも適度にマイルドで、従来のカスタムとは一線を画す。開発当初はもっと攻めた味つけも検討されたようだが「今回はデザインが1種類なので、シリーズ全体で統一感のある乗り味をめざした」と開発関係者は話す。14インチタイヤ採用のNAモデルと乗り比べても大きく印象が違わないのは、こうした狙いが息づいている証拠と言えよう。
タイヤサイズの相違に合わせてRSには専用のショックアブソーバーが採用されているが、滑らかな乗り心地の実現には苦労したという。そのおかげもあってか、首都高に多い道路の継ぎ目でも突き上げやハネるような動きは少なく、開発陣がめざした150~200kmのロングドライブもこなせそう。
試乗を通して感心したのは静粛性の高さだ。いや、正確に言うとノイズは発生しているが、何かの音が突出して耳につくこともなくバランスが取れているため、相対的に静かに感じられる。開発関係者に聞くと「防音・遮音の適正化を図った。具体的には後輪からのロードノイズや排気音が入ってくるのを抑えるためにリアまわりの遮音材を増やし、逆にフロントまわりは減らした」とのこと。その結果が前述した『気にならないレベル』にまとまっているというワケだ。
一方で、さらなるブラッシュアップを期待したい部分もある。高速道路で重宝するアダプティブ・クルーズコントロールは安全デバイスとともにデュアルカメラで制御されているが、前走車を認識する精度がイマイチで、例えば前方が渋滞している場面でもなかなか認識せず、大丈夫か!?近づいてから急減速して後続車をヒヤッとさせないだろうか?と不安になってしまった。
この点に関しては開発陣も認識しているというから、いずれ改善されるだろう。普及が進んでいるミリ波レーダー&単眼カメラ併用式のほうが精度を高めやすいが、開発陣に話を聞く限り、良品廉価をモットーにするダイハツとしてはデュアルカメラ式のまま性能向上を追求していくようだ。
ちなみに白線を認識する能力は良好で、車線維持支援は違和感なくサポートしてくれた。
カスタム廃止で単シリーズ化された新型ムーヴには4つのグレードが用意されている。
135万8500円のLグレードは法人ユーザーをターゲットにしていてキーフリーシステムや運転席シートリフター、チルトステアリングも省かれていて個人ユーザーが日常づかいするには淋しい。
多くを求めず必要十分な内容が揃っていれば満足、という消費者にはひとつ上のXグレードがオススメだ。かろうじて150万円を切る価格(149万0500円)が見逃せない。
ファーストカーとして使う前提で上質感を求めるユーザーにはGグレード(171万6000円)またはターボエンジン搭載のRS(189万7500円)が魅力的に映るだろう。これら2グレードではアルミホイール、電動パーキングブレーキ、メッキ室内加飾など、加わる装備は少なくない。

2WDモデルのラゲッジ床下には深いボックスが用意されている
主要スペック(RS)
●全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1655mm
●ホイールベース:2460mm
●車両重量:890kg
●パワートレイン:660cc直3ターボ(64ps/100Nm)
●WLTCモード燃費:21.5km/L
●駆動方式:2WD
●税込み価格:189万7500円(オプションを含まず)