日産は自動運転モビリティサービスを27年度に事業化することを視野に入れ、その取り組みを発表した。
同社がめざすのは公共移動版の「どこでもドア」で、いわば乗り合いシャトルバスのような存在だ。まず今春から横浜市の一部で実証を始め、25年度からモニター客を対象にサービスを開始する。セレナを使って最大20台ほどの規模で展開。この時点では、まだセーフティドライバーが同乗して安全を確保し、無人化に向けての課題を洗い出すとともに技術を進化させていく。
有償サービス開始時の27年度には横浜市だけでなく、他にも3〜4の市町村でも行う方針だ。全部で数十台規模に達する見通しだという。
将来的にレベル4の無人運転を実現するために、さまざまなユースケースがロジックとして開発されていて織り込まれる。ユースケースとは、例えば前方に路駐がいる場合にどう動くか、雨が降ってきたら車速をどう制御するのか、右左折に備えての車線変更といったモデルケースのことで、横浜で行うにあたって約2000のユースケースを揃える。「事故など何か起きた時に説明できることが大切」と、常務執行役員で同社の総合研究所長でもある土井三浩さんはユースケースをキチンと設計しておくことの意義を説く。
めざす最終的な姿はレベル4の無人運転状態で、乗り降りできる場所(停留所)は定めるものの、ルートは乗客の目的地や待機客の有無に応じて変わる。利用者はアプリで予約し、乗車時の認証(本人確認)と降車時の精算も無人で行えるシステムを用意。
公開された実証車には周囲の交通や環境を検知するデバイスとしてライダー(LiDAR)6個、レーダー10個、カメラ14個が搭載されている。また、故障した場合に安全な場所まで自力で辿り着けるよう、冗長設計が施されている。
取り組みについて説明した土井さんは「ユースケースが有限であることを把握していることは有利」としてAI任せで際限なく開発している事例との違いを語った。事業化した際の料金は“バス以上、タクシー以下”が目安のようだが、すぐの黒字化は難しいだろう。ちなみ以前に横浜市で行った実証ではワンメーター以下の短距離移動も少なくなかったそうで、これは運転手に気を使わずに済む機械相手ならではの傾向だとか。
廃線によるバス路線の減少やタクシードライバーの不足で移動の自由度が下がっていることは大きな課題だ。「移動の課題を解決し、日本の技術で移動を支えていきたい」という土井さんの言葉が印象的だった。
参考までに、日産は18年2月に横浜みなとみらい地区でリーフ3台を使って自動運転の実証を始め、その後も同地区でeーNV200を使って乗客移動の実証を続けてきた。
一方、福島県浪江町では、有人ではあるがスマートモビリティと称して地元民の移動を支えている。こうした経験で得られたノウハウが蓄積されていて生かされることは言うまでもない。