【X流法律のツボ】任意の所持品検査の場合どの程度まで捜索されるの?

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【X流法律のツボ】現役弁護士が難しい法律問題をわかりやすく解説:イラスト/本田サニー
任意の所持品検査
今回は職務質問と所持品検査について、具体的に理解を深めることにしよう。

およそ警察官が犯罪の予防や捜査のためにする活動は、強制処分と任意処分とに大別できる。

強制処分とは相手の同意など必要とせず、強制力を持って行われるもので、どんなことができるのか具体的に法律で規定されており、原則として裁判官の令状を受けて行われる。

例を挙げれば、逮捕、勾留、捜索、差押さえ検証、身体検査などが強制処分にあたる。

このような強制処分以外のものが任意処分で、原則として相手の任意な同意・承諾のもとに行われるので、行為内容にはとくに制限はない。

さて、このような原則論だけで済めば話は簡単だが、そうはいかないのが世の常だ。

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資産家から高価な壺が盗まれたという情報により、付近をパトロール中の警察官が何やら怪しげな風呂敷包みを抱えている不審者を見つけて職務質問をしているときに、風呂敷包みの中身は盗まれた壺ではないか?と疑って本人の承諾を得ないまま、上から触って形状を確かめたとする。

その行為はいわゆる所持品検査であり、「捜索」という範疇の行為であるから、令状もなく本人の同意もなく行ったのでは違法行為だという考え方もある。

一方で、そこまで杓子定規に考えて令状が必要だとしたのでは、盗品を抱えた犯人までみすみす逃がしてしまうことになるから、不審者に職務質問をする中では、その程度のことは許しても良いとの考えもある。

判例は、後者の立場から「職務質問に付随して、具体的な必要性、緊急性が認められるときは、強制力を用いることなく、捜索とまで言えない程度の所持品検査をすることも許される場合がある」という誠に用心深い言い回しでゴーサインを出している。

ただし、これは一般論を述べたにすぎないから、実際問題としてどのような場合にどの程度のことまで許されるのかは、事例ごとに個別に判断されることになる。

そこで、判例に現れた具体例を考えてみよう。
覚醒剤事犯について室内で職務質問中、テーブル上に置かれた財布を見たところファスナーが開いており、その中に覚醒剤を発見したという例は適法な所持品検査とされた。

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一方、職務質問中に相手のポケットに手を入れて所持品を取り出したという例では、違法な行為だとされた。

もうひとつ。本人が承諾しないのに数人の警察官が座席を動かすなどしながら丹念に車中を捜索して覚醒剤を見つけ出す行為は、職務質問に伴う所持品検査として許される範囲を超えているとされた。

このような判例から、裁判所が考えている適法性の基準がある程度、浮かび上がってくる。
それは、次のとおりである。

①身体に触れて所持品検査をすることは強制的要素が強く、基本的に違法である。

②威圧感や屈辱感を与えるような方法での検査は違法である。

③令状を受けて行う正式な捜索と同程度の丹念な検査行為は違法である。

④ファスナー等を開けないで中を覗いたり、外から触ってみるという程度のことは許される。

⑤バッグを開けて中身を調べることはプライバシー侵害ともなり、基本的に違法である。

これらはいずれも検査方法に関する要件だが、その前に、所持品について具体的な不審が存在して検査の必要性が強いことと、本人が明確に検査拒否の態度を示してはいないこと、この2点が認められることが必要だ。

ちなみに、職務質問に付随した適 法な所持品検査に不用意に反発して妨害行為をすると、公務執行妨害罪としてその場で逮捕されるおそれがあり、堂々と「逮捕時の捜索、差押さえ」(刑訴法220条)を実行されてしまうことになるからご用心を。

横山康博 弁護士
2010年5月号
任意の所持品検査

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