公益財団法人 本田財団は2016年の本田賞を、セルロース・ナノファイバー(CNF)の高効率な製造法の考案および製品への応用や将来における可能性の拡大に対する貢献を果たしたとして、東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授 磯貝明博士と、京都大学 生存圏研究所生存圏開発創成研究系 教授 矢野浩之博士に授与することを決定した。37回目となる本田賞の授与式にて、メダル・賞状とともに副賞として合計1,000万円が磯貝博士と矢野博士に贈呈されるという。
CNFは、植物細胞壁の基本骨格物質であるセルロースミクロフィブリル束の総称で、鋼鉄の1/5の軽さで、その5倍以上の強度と、ガラスの1/50の線熱膨張係数を有するナノ繊維。樹木など、植物資源の50%以上を占める自然界に豊富に存在する環境負荷の少ない植物由来の持続型資源であり、低炭素社会の早期実現に向けて、石油系プラスチックの代替、構造材の補強用繊維や改質剤としての利用が注目されているという。
磯貝博士は、CNF生産における化学的なアプローチとして「TEMPO触媒酸化法」を開発し、それまでエネルギーを大量に使用する機械的解繊処理によっていたCNF生産の効率とCNF構造の均質性を大幅に改善した。この発明は、その後のCNF生産および産業への応用に関する集中的な研究の道を開く礎となっているそうだ。
また、矢野博士はCNFで強化された複合材の生産において、パルプ繊維のナノ化と樹脂への均一分散を同時に達成する「パルプ直接混練法(京都プロセス)」を開発。CNFを作ってから樹脂などの複合材と混ぜていたこれまでのプロセスを、1プロセスで射出成型にそのまま使える形にしたことにより、大幅な時間とコストの削減を実現した。
また、産官学連携の活動においては、その牽引役となりCNFの応用範囲拡大に多大な貢献をした。
従来CNFは、ナノファイバーレベルまでの解繊コスト、ナノファイバー故の取り扱いの難しさなどから、工業的利用はほとんどされなかったが、磯貝博士、矢野博士が発明・発見された方法を用いて機能部材としての活用や構造部材としての利用が拡大しているという。今後の発展が大いに期待できそうだ。