スズキが10年先を見据えた技術戦略を発表した。
同社は「小・少・軽・短・美」を通してエネルギーの極少化をめざし、CO2排出量の低減を追求していく。そのキーとなるのは以下の5点だ。
1)軽くて安全な車体
8代目アルトの開発に際してスズキは軽量プラットフォームのハーテクトを開発し、7代目と比べて120kgの軽量化に成功。その後、ハーテクトは同社製品に横断的に展開された。
「軽量化を再加速する」と宣言した鈴木俊宏・社長の号令に基づき、開発現場では現行9代目より100kg軽いモデルをめざして先行開発がスタートしている。関係者は「3年以内に先行開発を終わらせ、2030年には市販化したい」と語る。
会見で鈴木社長は「600kgを切れないか?と提案した。例えば樹脂トリムは必要なのか。リサイクルや軽量化を考えたらトリムはムダではないか、と思う。そもそもクルマの目的とは何か、考える必要がある」「一度は軽量化を達成したが、チームスズキで改めて再加速させたい。期待してほしい」と語った。
2)バッテリーリーンなBEVとHEV
スズキは25年からBEVを市場投入していく。ただし、過剰なバッテリー容量を追求せず、日常の足として使われるクルマに最適な量を使う。
HEVに関しては12Vのマイルド方式を市販化してから久しいが、48Vに格上げしてモーターの出力を10kW程度に引き上げる(ちなみに軽自動車で実用化しているモーターは2kW程度)。もちろん、国や地域ごとに異なるユーザーの使用状況に合わせて検討していく。
各国の発電事情はマチマチで、2030年時点でも日本やインドは欧州と比べて非化石燃料化が低いとの予想がある。これを踏まえてクルマの製造から廃棄までのエネルギー消費量を試算すると、仮に非化石燃料による電気エネルギーが25%であればHEVがもっとも有利で、75%まで上がれば かろうじてBEVが一番少なく済むとスズキは試算している。
鈴木社長は「電動化ユニットの小型化は難しい。だからこそ大きくて高額なクルマから進んでいて、小さいクルマでは遅れて普及するのかなと思う」「軽自動車ユーザーの一日の走行距離は20km以下が多い。なのにエンジン車と同じ性能や航続距離を求めるのは正しいことなのか。例えば100km走れる程度のバッテリー量でもいいのではないか。普段づかいや通勤に使うなら1人乗りや2人乗りでもいいかもしれない。地球温暖化が進む中、ユーザーには賢い選択をしてもらうことが大切」とコメントした。
3)効率の良いICE(エンジン)とCNF(カーボンニュートラル)技術
23年デビューのスイフトで送り出されたZ12E型エンジンは最大熱効率40%を達成した。今後はこの技術を軽自動車にも横展開し、市場に応じてバイオガスやバイオエタノールの活用にも取り組んでいく。
4)SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)ライト
電子化が進んだクルマには過剰な機能もあるので、買いやすい価格を維持するためにも最適な内容を吟味していく。鈴木社長は「スマホにも使わない機能はあるよね。だったら安くしてよ、というユーザーもいるはず。生活に密着したクルマも同じ」と説明した。
運転支援技術は各国の道路事情や運転事情に合わせて導入していく必要があるという。技術者によると「インドではありえないタイミングで歩行者が横断するため、衝突被害軽減ブレーキが反応してしまう。そのため、OFFにされていることが多い」という。しかし、それでは必要な時にも作動せず、意味がない。スズキではカメラのソフトウェアに磨きをかけ、インドの交通環境下でも誤作動しない衝突被害軽減ブレーキの開発を進めており、遠くない将来に導入されそう。ちなみにインドでも26年頃には衝突被害軽減ブレーキが義務化されるため、これに間に合うタイミングで実用化される模様だ。参考までに、インドでの交通事故死亡者数(22年)は16万8491人で、日本の2610人と比べて65倍も多い。
なお、高速道路でのハンズオフ走行などレベルの高い支援システムは購買層のニーズに合わないため、積極的に実用化をめざす方針ではないという。
5)リサイクルしやすい設計
使用後に分解しやすい構造に設計するだけでなく、使用済みバッテリーを街灯に使うといったチャレンジも行われている。インドでも回収システムが構築され、取り組みが始まった。
こうした内容を、より効果的に、より安く、より早く実現することをめざすという。
会見でトヨタとの提携について質問された鈴木社長は「トヨタにはかなわない。ひとつだけ かなうとすれば『小・少・軽・短・美』。適材適所を考えて小型車に適したHEVとは何か?を議論も交えて考えていきたい。議論することは両社にとって良いこと」と答えた。