GMが水素燃料電池開発から50周年を迎えた。1966年といえば、アメリカで「バットマン」と「スタートレック」のテレビ放映が始まった年。両シリーズは、その後も50年にわたって熱烈に支持されて続けている。同じ年にこれほどの話題にはならなかったが、GMは、水素を動力源とする燃料電池車「Electrovan」の試験を世界で初めて行ったという。
フロイド・ウィチャレック氏(91歳)は当時、200名から成るチームと共に「Electrovan」燃料電池開発のプロジェクトマネージャーとして 、燃料電池技術を初めて民生技術に転用する取り組みを進めていた。この燃料電池技術は、1962年にジョン・F・ケネディ大統領がアメリカ航空宇宙局(NASA)に指示した「1960年代の終わりまでに人類を安全に月面着陸させる」という計画が発端となって培われたもの。
ウィチャレックは、「このプロジェクトは3交代制で遂行され、1966年1月に開始、10ヵ月後に終了した。そして、同年の10月に、「Progress of Power(力の進化)」をテーマに記者発表会を開催し、1台のデモ走行車両を用意した」と述べている。
2016年現在まで、GMは水素燃料電池技術に25億ドル以上を投資しており、特許数においてもHondaと並ぶリーディングカンパニーのひとつだそうだ。2013年よりHondaと提携して開発を進めている次世代システムは、大幅な出力アップが図られるだけでなく、2名しか乗車できなかった1966年当時の「Electrovan」に比べ、燃料電池の小型化により、サイズも数分の1の大きさに収まる予定。
いくつかの燃料電池実証プログラムを通じて、GMは現代の燃料電池システムで310万マイル以上の実走行データを蓄積してきた。10月3日にワシントンD.C.で開催された合衆国陸軍協会(AUSA)の年次総会と展示会において、GMは、最新の燃料電池デモ車両であるシボレー・コロラドZH2を披露した。オフロードモデルであるこの中型ピックアップは、来年、陸軍において過酷な条件でテストされることになっている。
偶然にも、ZH2の契約から完成までに要した時間は、「Electrovan」と同じくおよそ10ヵ月だった。ZH2は「GM Hydrotec」のバッジをつけた初めての燃料電池車として登場し、Ecotecガソリンエンジンの系統を汲む1台だという。
「私達は、燃料電池車の市販を目指しつつ、軍事、航空宇宙、およびその他の分野においても燃料電池システムの幅広い可能性を見出している。「Electrovan」の50周年を祝うことは本当に特別なことだ」と、GMグローバルにおいて燃料電池事業のエグゼクティブディレクターを務めるチャーリー・フリーズ氏は述べている。
厳密に言うと、「Electrovan」は、水素が車両を駆動させるためのエネルギー源として利用できるかを研究するための試験車両だった。 ウィチャレックは、「燃料電池の耐久性は、試験セル内で数ヶ月間にわたって実証された」と語るとともに、「走行加速と最高速度の試験については、シャシーダイナモメーター上で行われた」と続けている。
プロジェクトの終了後「Electrovan」は、2001年に再発見されるまでの31年間、ミシガン州ポンティアックの倉庫に格納されていたそうだ。現在は、燃料電池の展示の際に使用され、外部のミュージアムに貸し出される以外はGMヘリテージセンターに収蔵されているという。2012年後半以降、ポンティアックは、GMグローバル燃料電池事業の本拠地となっているという。
60年代に月へ行くという壮大な計画を実現するために開発された燃料電池システムが、50年を経てやっとクルマに搭載される時代が来たというのも感慨深い。GMとホンダが計画しているという新世代の燃料電池車の登場に期待したい。そして、バットマンやスタートレックのように今後50年以上にわたって熱烈に支持されて続けて欲しいものだ。