モダンな外観デザインと左側ピラーレス開口をウリに掲げ、これまでミニキャブEVが独走してきた軽商用BEVマーケットにN-VAN e:(以下N-VAN)が参入した。大口法人をターゲットにしつつ、これまでN-VANのエンジン車が得意としてきた個人事業者や車中泊など趣味のクルマとして活用する個人ユーザーも視野に入れているという。
何より見事なのは、限られた軽自動車の寸法の中でエンジン車と同じ荷室空間および使い勝手が確保されていることだ。一般的に床下にバッテリーが搭載されるBEVはフロアが高くなって室内空間に影響が及びがちだが、N-VANでは荷室高がエンジン車と同じ1370mmに設計されている。それどころか、左側シートが廃されてフロア左半分が低く設定されているリース専売モデル(1人乗りおよび2人乗り)では110mm増の1480mmに拡大されている。
前輪を駆動するモーターはリース専売モデルが53ps、一般販売される4人乗りが64ps(どちらも最大トルクは16.5kg-m)で、一充電航続距離は245km(WLTCモード測定値)。低温時には充電中からバッテリーがヒーター回路で温められ、性能低下が回避されて航続距離の確保が図られる。
フロントマスクに配置された充電口リッドは普通充電口がプッシュオープン式、急速充電口は室内の電磁ロックで開く方式で間違えないように差別化したというが、混乱しやすく、あえて開け方を分ける必要があったのか疑問が残る。廃バンパーから製作された化粧パネルには塗装の細かな粒子が残っていてリサイクル・マークも刻まれるなど遊び心に満ちているため、併せて充電口を見分けるためのマーキングを施せば十分な間違い防止策になったかもしれない。
150kg以上の重量増に合わせてサブペンションはバネレートとダンパー減衰力が変更されてセッティングが見直された。また、しっかりと止まれる性能を確保するため、タイヤは13インチにサイズアップされてブレーキも大型化。制動力はほとんど回生ブレーキで得られるよう設計されており、電子シフトには約4%の下り勾配でDレンジと同程度の減速度を得られるBモードも用意されている。長い下り坂でバッテリーが満充電になった際、回生放棄に陥って急に減速感が抜けないよう、自動的に油圧ブレーキで制動して一定の減速度を維持する設計も織り込まれている 。
荷崩れ防止のために加減速はマイルドに味つけされているが、発進加速時はスッと立ち上がり、さすがBEVと思わせる走り味で交通の流れに遅れを取ることなく、ついていける。一方のブレーキも違和感なく操作できるが、途中で少し踏み増した時に加わる制動力が強くてカックンブレーキに陥りやすいため、この辺りのつながりがスムーズに改良されたら商品力はいっそう高まるだろう。
よいプロユースを視野に入れて内装は意外なほど作り変えられた。内張トリムにはコンテナをモチーフにした縦方向のグリッドが刻まれており、荷物の接触によるキズが目立ちにくいデザインに仕上がっている。さらに、助手席のないリース専売モデルは空調ダクトの風向調整やカップホルダー、エアバッグが省かれてスペース拡大に貢献。その結果、エンジン車では積めなかった長さ2.47mの脚立が積載可能に。
アクセサリーソケットが助手席前方から移設されるなど操作系はセンタークラスターに集約され、「雨天時にドアを開けて作業している時に濡れてしまわないように」(開発関係者・談)の理由もあってパワーウインドウスイッチはドアから電子シフト下方に移された。手が届きにくいワケではないが、せめてワンタッチで全開閉できるAUTOモードは残してほしかったところ。
車両にはコネクト通信機が全グレード標準装備されているため、ホンダ・トータルケアに加入すればスマホでタイマー充電や充電量、最大電流量などを設定できる。外部給電で電気を使いすぎて帰り道に困らないよう、下限SOCを定めておくことも可能だ。また、ナビタイムとのコラボで、すでに発表されているEVカーナビ・アプリにホンダ専用サービス(経路充電計画、航続可能範囲表示など)を追加。トータルケア加入者は無料で使える。
安全性アップにおいてはサイド&カーテンエアバッグを装備することでポール側突(32km/h)に対応している点が見逃せない。また、エアバッグ展開後の二次被害を防ぐ衝突後ブレーキもホンダ初採用。
参考までに、自家用(黄色ナンバー)の場合は55万円、事業用(黒ナンバー)の場合は約100万円の補助金を国から受け取ることができる(これ以外に独自の補助金を用意している自治体もある)。
https://www.honda.co.jp/N-VAN-e/
主要スペック(e:L4)
●全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1960mm
●ホイールベース:2520mm
●車両重量:1130kg
●パワートレイン:電気モーター(64ps/16.5kg-m)
●一充電航続距離:245km(WLTCモード測定値)
●駆動方式:前輪駆動
●税込み価格:269万9400円(オプションを含まず)