クルマの第一印象を決めるデザインによって、こんなにも反応が違うのか——eKクロススペースのボディ前後をリニューアルし、併せて車名をデリカミニに変えた効果をもっとも実感しているのは、ほかでもない三菱自身かもしれない。というのも、デリカミニは東京オートサロンでのアンベール以来、発売までに1万6000台もの予約注文を獲得したのだから。メーカーだけでなく、販売会社も良い手応えを感じているという。
フロントマスクが変更されてリアガーニッシュにDELICAのレリーフが追加され、外観のイメージが刷新された。eKクロススペースはデザインを理由に女性から敬遠されることが多く、スリップ時に駆動力配分を制御するグリップ・コントロール、高速道路で車速と車線維持を支援するマイパイロット、320mmに達する後席スライド量など、多くのセールスポイントを身につけていながらも「それらが消費者、とくにターゲットのファミリー層に伝わっていなかった」と同社・商品戦略本部の中村祥介さんは振り返る。
今回の手直しでパワートレインや駆動系は変わっていないが、よりアクティブな印象をかもし出す狙いで4WD車に15インチタイヤ&アルミホイールが新採用された。これに伴って車高は8mm上昇。足まわりのセッティングはバネをそのままに、クロスカントリー路でもフラットに走れるようダンパーが刷新された。同社・第一車両技術開発本部の鳥居陽一さんによると「ダンパーは伸び側を硬く、縮み側を柔らかくした」とのこと。現行eKシリーズは日産が設計&開発を担ったため、メカ部分の調整範囲(許容値)を日産に確認しながらも、ダンパー再設定は三菱が自ら行ったそうだ。
外観リニューアルと足まわりの設定変更という大掛かりな手直しについて、社内では「本当に結果を出せるのか。上手くいくのか」と疑問視する声もあって議論が繰り返された。しかし、発売前にユーザーを集めて実施されたクリニック調査で良い評価を得られ、これが開発陣の背中を押した。いざ予約受付を開始するとその台数は順調に積み上がり「『いい波が来ている』と若い社員を中心にモチベーションが上がっている」と鳥居さんは頬を緩める。
元々eKクロススペースはアイポイントが高いため見晴らしは良好だが、8mmの車高アップで視点はいっそう高まった。ダンパー変更のおかげで車高アップに伴うコーナリング時の不安感は抑えられているが、やや突っ張った印象があってマンホールの上を通過した時の突き上げは強めだ。とはいえ、全高の高いクルマで足まわりをソフトに仕上げてしまうとロール量が増えて怖さを感じさせることになり、バランスを取るのは難しそう。
20年からeKクロススペースを販売してきたものの、マーケットで存在感を打ち出せなかった三菱はオリジナリティあふれるデリカミニで一発逆転を実現するに違いない。