ダイハツの不正行為は開発期間の切り詰めが最大要因

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4月28日に側突試験の認証申請における不正行為を公表したダイハツは、5月に独立した組織の第三者委員会を設置して調査を続けてきた。その報告書が12月20日にダイハツに提出された。

cast_35調査の結果、新たに25の試験項目で174個の不正行為が発覚。その影響は、すでに生産が終わった車種も含めて64車種・3エンジンに及ぶ(他社へのOEM供給モデルを含む)。これを受けてダイハツは国内外で生産中のクルマすべての出荷を一旦停止することを決めた。
調査の過程で第三者委員会から一部情報の提供を受け、並行してダイハツは安全および環境性能が法規を満たしているか、検証と実車試験を行ってきた。
その中でエアバッグ展開コンピューターが使われずに試験が行われた事案ではエアバッグの乗員保護性能には問題がなかったものの、キャストとトヨタ向けOEMモデルのピクシスジョイで側突試験の乗員救出性(ドアロック解除)が法規に適合していない可能性が判明した。



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最初の内部通報で発覚した海外向け4車における不正行為では、側突試験でシャープエッジが生じない割れ方をするようドアトリム裏面に切り込みを入れる加工が行われた。さらに、不正が行われているとの内部通報を知った担当者は開発中だった車種で急きょドアトリムを通常のものに差し替えて発覚を免れ、審査官の確認後、翌日の試験までに切り込みを入れる加工を行ったという。

2つ目の案件として5月に公表されたロッキーHEV(&ライズHEV)では側突試験をリハーサル試験用兼届出試験と立会い試験の2回とも助手席側で実施してしまい、運転席側のデータが取れないままに。改めて試験を行う時間と車両がなかったため、助手席側のデータを運転席側の試験結果と偽って提出した。
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このように、問題の多くは開発プロセスの時間不足が足かせとなって不正につながったと第三者委員会は結論づけている。第三者委員会が開発本部や法規認証室の役職員3696名にアンケートを実施したところ、不正行為の発生原因トップ5は2886名が「開発スケジュールが過度にタイト」、2515名が「発売時期や開発日程遵守(延期不可)のプレッシャー」、2074名が「人員不足」、1734名が「社風・組織風土」、1276名が「個人のコンプライアンス意識」と答えた(複数回答あり)。

スクリーンショット 2023-12-20 16.46.41 調査結果を受けて行われた緊急会見で、奥平総一郎社長は「ユーザーと取引先に心配や経済的な苦労をかけて本当に申し訳ない。待っているユーザーにもクルマを届けられず、心が痛む思い」と陳謝した。「(トヨタから)ダイハツに来てみて大変マジメな会社だと感じた。他社で不正が発覚した時も現場を見に行ってキチンとしていることを確信したが、しっかりしていると思ったのがいけなかったのかもしれない。課題を見抜けなかった。現場が声をあげられなかったことを猛省している」「ユーザーの安全第一で調査してきた。法規を満足しているかどうかデータのチェックなどを行ってきた。社内検証ではあるが、乗り続けて問題のある事象はない。ドアロック解除の件は法規不適合の可能性があるが、市場で事故や問題の情報はない。ダイハツとしては安心して乗ってもらいたいと強く思っている」と説明した。また、従業員に対しては「限られた時間と予算の中で必死に頑張ってきた人、不正をせずに頑張ってきた人もたくさんいる。従業員が笑いながら楽しく仕事できる余力を作る必要がある。まずは立ち止まって適切なプロジェクト数とリードタイム、プロセスを作ることが必要。強い会社に再生したい」との決意を述べ、「再発防止の道筋をつけるために力を発揮する」として進退に関するコメントは避けた。
同席したトヨタの中嶋裕樹副社長は「トヨタは現地現物で立ち止まることを徹底してきた。子会社に反映できていなかったことは問題で反省したい」「ユーザーに安心して乗ってもらえるクルマを一日も早く届けることが大事。目の前のことに取り組んでいくことが責務」と語った。
スクリーンショット 2023-12-20 18.07.53 出荷停止に伴って生産も止まり、サプライヤーにも影響は及ぶ。ダイハツの星加宏昌副社長によると「発注している部品は引き取る。国内の仕入先は423社で、ダイハツへの依存度が10%以上は47社、うち34社は中小企業。補償は一社ごとに相談して検討していきたい」と説明した。
会見の最後には奥平社長が「絶大な信頼を裏切ってしまうことになって大変申し訳なかった」として、再び深々と頭を下げた。

ディーラー関係者は「会見前まで全く情報がなく、ネットニュースやテレビのニュースで知った」と話す。



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調査で判明した古い不正は94年に実施されたアプローズの頭部傷害値試験に及ぶ。国内向けモデルが関連する不正の一例は下記のとおりだ。

旧型ハイゼットトラック(エアバッグレス仕様)<99年1月〜11年11月>
立会い試験で助手席頭部加速度データを事前のリハーサル試験時のデータと差し替えられるよう準備し、試験後にデータを差し替えて審査官に提出した。

ムーヴ(&スバル・ステラ)<14年12月〜23年6月>、キャスト(&ピクシスジョイ)<15年9月〜23年6月>
サイド&カーテンエアバッグを専用ECUではなくタイマー着火で届け試験を行った。ECUの設定が間に合わず、量産までに設定できれば問題ないと考えた。
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ムーヴキャンバス<22年7月〜生産中>
試験成績書に車台番号を記載すべきだが、試験車両に番号が刻印されていなかっために虚偽の車台番号を記載して認証申請を行った。開発コスト削減のため認証申請に利用する車両のみ番号の刻印を行っていたが、発注漏れで車台番号のない状態が発生。
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プロボックス(&ファミリアバン)<14年8月〜生産中>、コペン<14年6月〜生産中>、ミライース(&ピクシスエポック&プレオプラス)<17年5月〜生産中>、ロッキー(&ライズ&レックス)<19年11月〜生産中>、タフト<20年6月〜生産中>、トール(&ルーミー&タンク&ジャスティ)<16年11月〜生産中>、タント(&シフォン)<19年7月〜生産中>など
上記のムーヴキャンバス同様、試験車両に車台番号が刻印されていなかったため、別の車両の車台番号を記載して認証申請を行った。
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コペン<14年6月〜生産中>、ムーヴ(&スバル・ステラ)<14年12月〜23年6月>、キャスト(&ピクシスジョイ)<15年9月〜23年6月>、ブーン(&パッソ)<16年4月〜23年12月>など
衝突試験で速度が上限を超えていたが、法規より不利な条件下で合格しているから安全性に問題はないと考えて虚偽の衝突速度を試験成績書に記載した。
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開発中の車種
衝突試験後に右側リアドアを400ニュートン以上の力で引っ張って開放しないか確認する必要があるが、確認前に誤ってリアドアを作動させたために開放確認が行われなかった。再試験を実施する時間がなく、立会い試験で行われた左側ドアの試験が合格だったために合格とみなして虚偽の情報が試験成績書に記載された。

iQ<08年11月〜16年3月>
ダミー人形のヒップポイントが正規の位置より10〜20mm高くて不合格を連発したが、開発日程の都合上シートを交換する余裕がなかったため、立会い試験の前日夜にシートクッションを切り取るなどの加工を行って着座位置を低くし、法規で要求される範囲に収まるよう調整した。ダミー人形のヒップポイントを調整する加工はロッキー(&ライズ)、タフト、アトレー/ハイゼット(&ピクシスバン・トラック&サンバー)、ムーヴキャンバス、開発中の車種でも実施。

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