SCOOP!! 国交省はなぜデンソー製空気清浄機にこだわるのか

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SCOOP!!

国交省はなぜデンソー製空気清浄機にこだわるのか

 

タクシーへの地方創生臨時交付金誘導狙う国交省

働きかけに応じた都道府県は47分の9にとどまる

 

 

手際良く登場した「新常態タクシー」

 

詳細はマガジンX10月号(8月26日発売)に掲載するが、2020年度第3次補正予算で、タクシー、バスのコロナウイルス感染対策のための除去装置導入補助金(導入額の半金を国が補助)を支給する立場の国交省自動車局旅客課と自動車局長の動きは謎だらけだった。

https://mag-x.jp/2021/08/02/18329/

2次補正でバスに重点を置いたから、「3次補正ではタクシーに重点を置くことにした」(旅客課)までは理解できなくもない。オリンピック期間中には関係者の移動のためのハイヤーの手当てが足らず、タクシーをハイヤー代わりに使うことにしたため、タクシーにコロナウイルス除去装置(以下、除去装置)導入を促したかったという大義名分があったからだ。尤もこれが不発に終わったのは言うまでもない。理由は下記だ。

国は日本交通と協力して「新常態タクシー」なるものまで製作した。運転席と後席客席を隔てる樹脂板とデンソー製高性能空気清浄機を設置していた。デンソー製空気清浄機は空間モニターとセットで10万円の高級品である。

 

数々の疑問

 

だが、タクシー事業者の食いつきは鈍かった。事前に行われた補助金を希望する事業者に対するアンケートでは、そこそこの導入希望はあったものの、選べる設備がデンソー製空気清浄機とケンウッドが販売するオゾン発生器の2択かのような表現が使われていた。

事業者に対しては、地方運輸局の窓口でも「デンソー製の導入希望を出す方が補助金を得やすい雰囲気」(ある事業者)が醸し出されていた。詳細についてはマガジンX10月号に詳述している。疑問はいくつかある。

  • なぜ空気清浄機だったのか。空気清浄機はデンソー製のみ推奨されていた。
  • バスで推奨されていたオーニット社製オゾン発生器が第3次補正時のタクシーでは削除されていた。
  • バスでは掲載されていなかったケンウッド製オゾン発生器が第3次補正時には唐突に記載されていた。デンソー 製品とケンウッド製品はコロナウイルスを使った実験を行っていないのに、国交省は「エビデンス(実証的裏付け)がある」と主張した。ちなみにオーニット社の製品はコロナウイルスを使った実験により有効性が確認されている。まさか知名度がないからオミットしたとは思わないが。
  • 自動車局長は業界紙のインタビューなど機会あるごとに、タクシー事業者に対してデンソー製空気清浄機を推奨していた。
  • 10万円のデンソー製空気清浄機導入を促すため、「コロナ対策地方創生臨時交付金(内閣府管掌)」で事業者負担分の5万円を賄えるよう地方自治体に働きかけた(添付)。オーニット社製オゾン発生器は約5万円なので事業者負担は2.5万円ほど。同じ金額なら2倍の台数取り付け可能だ。なぜわざわざ高額な製品を推奨したのだろうか。

 

疑問に答えない旅客課

 

上述の通り「状況証拠」は自動車局旅客課と自動車局長らが、わざわざデンソー製空気清浄機を導入するよう誘導したように見える。

この「疑惑」について訊ねた。旅客課長は「第3次補正の補助金では当初からエビデンスがあればどの社の製品でも導入可能だった」としながら、記者の「なぜ調査票からオーニット社を削除したのか?」の質問には答えない。

自動車局長には昨日、8月16日に単独面談させてもらったが、「特にデンソー製品を推したつもりはない。一部(の事業者に)に誤解があったようだ。記者の指摘により気づきがあったので、今後の施策の参考にさせていただきたい」と木で鼻をくくったような答えだった。

 

8月13日にようやく通達を発出

 

ともあれ旅客課は8月13日付けで、全国の運輸局に対して、「エビデンスがあればどの製品でも補助金申請を受け付ける」旨の通達を「旅客課課長名で行った」(旅客課長)ので、今後は第3次補正予算の範囲内で、タクシー事業者、バス事業者は製品を自由に選べることにはなった。総選挙を控えて「臨時の補正予算を組む機運も高まっている」(政界事情通)から、予算がつけば、タクシー、バスの事業者によるコロナウイルス除去補助金の積み増しも「前向きに検討する」(旅客課)姿勢を見せている。

 

ありとあらゆるカネが必要な事業者と地方自治体

 

だが、問題は残る。今春から夏にかけて「地方創生臨時交付金が使える」と旅客課と自動車局長は事業者や業界団体に説明した。さらには8月10日の赤羽国交大臣も記者の質問に「働きかけを行なっている」ことを認めた。

「導入費用がタダになる」とのニンジンをぶら下げられた事業者は当然のことながら「持ち出しゼロ」をあてにして、コロナウイルス除去装置購入を躊躇している状況だ。それでなくてもタクシーやバスの事業者は、コロナ禍に伴う国民の外出自粛などもあって企業存続に青息吐息である。「コロナ対策も大切だが、従業員の雇用維持、会社破綻回避に金がいくらあっても足りない」(ある事業者)のが実情だ。

地方自治体だって、「コロナ対策」には各方面にお金が必要で、タクシーに交付金を回す余裕はない。実際、現状で47都道府県のうちタクシー、バスへの支援を表明したのは9道県にとどまっている。それも補助金申請の全額とはいかない。

果たして読者の皆様で「新常態タクシー」をはじめとしたコロナウイルス対策設備導入タクシーに乗った方はどれほどいらっしゃるだろうか。8月中旬でこんな状況だから、設備導入車が世の中に出回るのは、「年末時点でもたいした台数とはならないだろう」との見方が業界では一般的だ。この問題、裏の事情を解明する必要がありそうだ。

取材・文/神領 貢(マガジンX編集長)

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