日本一売れているクルマ、N-BOXが3代目に生まれ変わった。初代は20〜30代の女性に人気を博し、2代目はダウンサイザーや子育てを終えたポストファミリーにも支持されてユーザー層が広がった。続く3代目も運転しやすく、乗員みんながノビノビと快適に過ごすことができ、優れた使い勝手を継承するなど、キープコンセプトのまま商品力に磨きがかかった。
シャシーとボディ骨格は先代から流用され、パワートレインにはS07B型エンジンが受け継がれている。そのため性能スペックは変わっておらず、競合車と違ってマイルドHEV化も見送られて純エンジン車のまま登場した。電動化について開発関係者は「ホンダとしてBEVへの移行を決めている中、いまからマイルドHEVに開発リソースを注ぐのは得策ではない」「ライバル車の動向も確認しつつ開発した。(HEV化しなくても)十分な燃費競争力を持っている」と話す。
今回のモデルチェンジではアダプティブ・クルーズコントロール(ACC)と車線維持支援(LKAS)をスイッチひとつで同時に起動させられるよう改良されたのもポイントだ。
そのLKASは車線中央の維持に注力するため、アールの大きいカーブではステアリング制御が滑らかさに欠ける点が気になった。一定のチカラで緩やかにアシストしてくれたら感性品質も上がるだろう。
視界を向上させる狙いでメーターパネルは下げられ、インパネ上面はフラットに成形されている。7インチ画面の上半分に車速が大きく表示され、下半分にはマルチインフォメーション画面が内蔵されていて前出のLKAS作動状況や燃費情報、100種類もの中からランダムに背景が選ばれるカレンダーなど表示項目を選べる。
チルトステアリングと運転席上下アジャスターを活用してドラポジを合わせようと試みたが、メーター上端が見切れる点が気になってシートを下げた結果、ウリでもある視界の良さはそれなりにしか堪能できず、どのポジションが正解なのか見出せなかった。メーターパネルを囲うハウジングの形状とステアリングコラムのチルト量には再考の余地があるかもしれない。
使い勝手ではコネクト技術への対応によってスマホからドアロック、スライドドア開閉、乗車前の空調が遠隔操作可能になった点が見逃せない。スライドドアに予約ロック機能が加わったのも便利だ。
後席の広さも健在で、リアシートを前方にスライドさせてもニースペースは十分に確保される。おなじみの巻き取り式サンシェードに加え、リアシート中央にアームレストが備わった点が目新しい。
一方でライバル車に見られる天井サーキュレーターは採用ならず。「エアコン能力は十分で後席にも空調が行き渡る。装着すると後席からの見晴らしの良さがスポイルされ、価格上昇にもつながる」とは開発関係者の弁だ。
いざ走らせると、天井トリムとフロアカーペットの改善による高い静粛性が実感できる。エンジン音やロードノイズよりも風切り音が耳についたくらいだ。乗り心地に関しては14インチタイヤを履くNAモデルと15インチタイヤ採用のターボ搭載車でショックアブソーバーが異なっており、後者のほうが踏ん張り感があって好感を抱いた。
初代でN-BOX+として投入されたスロープ仕様車は3代目でも健在だ。先代で電動ウインチと格納式スロープが標準装備されたことで福祉車両の印象が強まったが、一方で国内の福祉車両マーケットは縮小傾向にあるという。その理由は、福祉車両に対する敬遠感や「まだ自分には早い」といったユーザーの気持ちが影響しているという。
そこでホンダは初心に帰ってレジャーユースにも活用できることをアピールしていく(初代のカタログでは車中泊の使用例などが紹介されていた)。もっとも、銀色のスロープによって福祉車両の印象が増幅されている印象も否めないので、まずはスロープの色や材質を見直し、ホンダ特有の遊び心を織り込んでみてはいかがだろうか?
シャシー&ボディ骨格の流用や電動化が見送られた点を加味すると、新型N-BOXは2代目の熟成版と捉えることができる。保有台数の多さは武器ではあるが、猛追するライバル車との差を次代まで保つことはできるだろうか。
主要スペック(N-BOX)
●全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1790mm
●ホイールベース:2520mm
●車両重量:910kg
●パワートレイン:660cc直3(58ps/6.6kg-m)
●WLTCモード燃費:21.6km/L
●駆動方式:FF
●税込み価格:164万8900円(オプションを含まず)